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世界のマーケットとそのほかの個人的趣味

【翻訳中】『トレードを極める 第3版』 609段まで終了 2023/10/11(水) 11:20 update

Mastering the Trade, Third Edition: Proven Techniques for Profiting from Intraday and Swing Trading Setups, December 18, 2018 by John Carter (Author)

Mastering the Trade, Third Edition

【注意】

  • 訳注*1は特に言明がなければ、翻訳者の私が勝手に付けたものです。

はじめに

短期売買について最高の教訓を得たのはラフティングの旅に出たときのことだ。8人が乗っていたラフトが岩にぶつかって反転し、全員が大砲玉のように空中に投げ出され、氷のように冷たい水に真っ逆さまに落ちた。流された場合、落ち着いて仰向けになり、足を下流に向けなければならないことを半数の人は覚えていた。私たちは岩を避け、水の滝の中を飛び回り、最終的には無事に陸に上がることができた。他のメンバーがどうなったかを知るまでに1時間はかかった。彼らのために救助活動が行われた。その結果は足の切り傷、脳震盪、溺れかけた人がいた。その後、他のグループと話をしたところ、全員が頭が凍るようなある種の経験をしていることがわかった。周囲に危険が迫っているのがわかっていたのだ。自分たちがトラブルに巻き込まれていることを知っていたのだ。そして、何か行動を起こさなければならないこともわかっていたのに、どう行動すべきかを決められなかったのだ。つまり、「ヘッドライトに照らされた鹿」*2のように固まってしまい何もしなかったのだ。決定的な行動指針がないまま、彼らの襟首は川に翻弄され、請求書の支払いが終わっていないためにいらだつヒモがよくやるように、平手打ちを食らい意識を失った。

あるメンバーが「あの川は私を狙っていたんだ」と言っていたのを覚えてる。極端な偏執狂や自己中心的な考え方はさておき、川が誰かを狙っていたわけではない。川は海へ向かうために渓谷を素早く、急速に移動するという本来の動きをしたまでである。川の性質を理解した人は覚悟を決めてジェットコースターのような旅に出た。この流れにあらがった人たちが打ちのめされたわけだ。

この出来事とトレードをする日に典型的に起こることの間には類似点がある。準備ができていないトレーダー(初心者)は、準備ができていない急流下りの人と同じ状況にある。極限状態になれば、どちらも動きが止まり、生き残るのは運次第である。たった一度の間違った取引で、数ヶ月あるいは数年の利益が帳消しになることもある。

プロのトレーダーがお金を稼ぎ出せるのは、多くの場合正しいからではなく、準備のできていないアマチュア・トレーダーとして存在する「新参者*3」を利用する方法を知っているからである。「新参者」とはトレード経験が10年未満の人を指す。とはいえ、多くのトレーダーはこの段階を乗り越えることなく、トレーディング人生のすべてをこの犠牲者のような状態にとどまり続ける。耐えぬき、一貫して勝ち続けるトレーダーの仲間入りをはたす少数派は、以下に示す真実を学び取った人たちなのである。

  • 金融市場はもともと人間の本性を利用し、それを食い物にするようにできている。その結果、市場はできるだけ少数のトレーダーが参加するかたちで、主要な日中取引やスイング取引を開始する。この仕組みを理解していないトレーダーはお金を失う運命にある。

  • トレーダーは世界のほかの誰よりも市場について詳しくなることができる。しかし、取引のセットアップに間違った手法を適用すれば損をすることになる。

  • トレーダーはある指標や指標群について、世界中のほかの誰よりも詳しくなることができる。しかし、それらの指標に間違った手法を適用すれば損失を被ることになる。

  • トレーダーは自分のしていることを正確に知ることができる。しかし、自分の性格に合わないマーケットでトレードすれば損をすることになる。

  • トレーダーは自分のやっていることを正確に知ることができる。しかし、人生の他の分野で成功するために使ったのと同じ戦略を適用すれば損をする。

この知識を持たないトレーダーは、ライオンの群れの中にいる傷ついたカモシカのようなものだ。カモシカがズタズタに引き裂かれて飲み込まれるかどうかは、「もし」ではなく、むしろ「いつ」かという問題なのだ。この知識を持たないトレーダーにとって、破滅の可能性は「もし」の問題ではない。「いつ」の問題でしかないのだ。

それにもかかわらず、どんなに不利な状況が積み重なっても、利益なんかは簡単に生み出せ、航空チケットはファーストクラスという幻想をいだき、上司に向かって消え失せろとののしる夢で頭をいっぱいにしながら、毎年何万人もの準備不足のトレーダーがまるで海へ向かうレミング*4のように市場に群がるのだ。取引の実際の仕組みを理解するアイデアの一端を思いつく頃には、彼らはすでに崖から飛び降り、下にある岩に向かって落ちているのだ。彼らが苦労の末に手にするのはのたくさんの挫折と絶望、おそらく激怒した配偶者、そしてプロに荒らされ、むしり取られた取引口座だけなのだ。

このような状況は最近、暗号通貨市場の成長とともに最高潮に達し、初期の参入者によって多くの富が生み出された。しかし、ひとたびビットコインのような市場が出現し、定着すると、あらゆる他の市場と同じように取引されはじめるのだ。あなたが取引しているのは暗号通貨やネットフリックスではなく、あなたの方が間違っていて、自分たちが正しいと思っている別の個人投資家や機関投資家だと言うことを忘れるべきではない。

トレーディングとはみんなで手をつなぎ、ジョン・レノンの「イマジン」の歌詞を大きな声で歌いながらともにお金を稼ぐことではない。金融市場はまさに地球上で最も民主的な場所なのだ。トレーダーが男性か女性か、白人か黒人か、アメリカ人かイラク人か、共和党か民主党か、そんなことは関係ない。全ては技術次第なのだ。

プロのトレーダーになるための唯一の方法は、エッジ*5、すなわち他の迷える羊たちとあなたを区別する武器を手に入れることなのだ。そのエッジとは、先に挙げた5つのポイントを考慮した特定のチャート設定と取引方法、そして取引の相手となるトレーダーの心理を利用することで得られるものだ。エッジを持たずに、興奮と期待に満ちた金融市場に通じる回転ドアをくぐれば、捕食者たちはただ舌なめずりをするだけである。捕食者たちが見ているのは食べごろの新鮮な厚切り塩漬け肉であり、彼らは宴会を開くことになるだろう。

この本を読むべき人はだれか?

本書はマーケットに対する独自のアプローチを採用し、市場価格を実際に動かしている根本原因に焦点を当てた。これは株式、ストックオプション、先物、FX、暗号通貨の取引に応用することができる。現実にマーケットが変動するのは自由意志によるのではなく変動せざるを得ない状況にあるから動くのだ。追証*6やストップラン*7、パニック売りすべてがごく短い時間で連続する高速発注につながる。それが数分から数時間続く日中の激しい値動き、さらに大きなスケールでいえば数日から数週間続くスイングの動きにつながっていく。こうした動きは、このプロセスの仕組みを理解していない多くのトレーダーに苦痛を与える。一方でこうした局面で利益をあげるトレーダーが常に存在する。本書では、多くの古典的なテクニカル分析とチャートパターンを独自に解釈しながら、このような局面を有効に利用するために「トレードのもう一方の側」にポジション取りをする具体的な方法について解説していく。

具体的には、戦略について議論する際、この本は株、オプション、ETF(上場投資信託)、さまざまな先物や商品市場、およびForex通貨市場の日中取引のための正確なエントリー、出口、およびストップロスのレベルを提供する。暗号通貨の取引更新や本書全体にわたって提供されるオンラインのリンクには最新の戦略も含まれている。戦略は、さまざまな市場や資産クラスのデイトレード*8、スイングトレード*9、ポジショントレード*10に焦点を当てる。

あらゆる経験レベルを背景に持つトレーダーたちが、この本に出てくる多くの市場についての全体像と具体的な取引戦略を受け入れてくれることを私はのぞんでいる。初心者のトレーダーには、市場が実際にどのように機能しているかについての誇張のない現実的なチェックを受ける機会が与えられ、明確なコンセプトとトレードのセットアップ*11が紹介される。そして、舞台裏で常に起こっている基本的な市場の仕組みを把握するまでは、なぜ初心者のトレーダーが損をする運命にあるのかを理解するようになろう。初心者トレーダーは自分がいかに繰り返しいいように利用されているかを理解することになる。

私の目標は、中級トレーダーが本書に含まれる知識を高く評価し、トレーディングの次のレベルへと引き上げることである。また、プロのトレーダーや市場関係者の方々には、本書を通じて、これまで直感的に感じていた真実の一端を明らかにするとともに、収益を向上させるための斬新なアイデアを提供できることを期待している。

デイトレーダーは、インジケーターだけに頼るとなぜ負けゲームになるのかを学び、トレードに早く参加するための具体的な戦略を発見し、取引から撤退するか、そのまま続けるかを判断する違いを学ぶ。スイングトレーダーや純粋な個別銘柄選定者は、市場の波と流れを読む方法を学び、ロングサイドとショートサイドのどちらに焦点を合わせるべきかを知ることができる。退職金口座を管理している投資家はリターンを向上させるために月単位や四半期単位で投資のタイミングを計る具体的なアイデアを発見するだろう。本書はフルタイムのトレーダーを対象としているが、フルタイムで働き、パートタイムでしかトレードできない人に焦点を当てた特別なセクションもある。正しく行えばこれには利点がある。

この本は金融市場に関心を持つすべての人にとって歓迎されるものだと思うが、基本的な知識を持っていることを前提としていることを認識していただきたい。ただし、第3章ではマーケットについての入門レベルの概念を取り上げている。オプションに関してひとつの章を割いて、基本的なオプション戦略の一部を詳しく説明しているが、オプションを利用するさまざまな方法をすべて網羅するつもりはない。つまり、そのトピックが既に書かれていたり、またはGoogleで検索できるものであれば、ここで再度繰り返すことはしない。本書はこれまでに書かれていない新しいコンセプトに焦点を当てる。また、早く理解を深めるのに役立つウェブサイトや他の書籍についても紹介する。

本書では、具体的なトレードセットアップに加え、使用するハードウェアやソフトウェアの種類、資金管理の配分、トレーダーの性格に合ったゲームプランの策定など、トレードの実践的な側面についても論じている。最後に、次の取引日に使える具体的な情報に強く焦点を当てている。

今回の改訂版に関するいくつかの注意点

この本を最初に書いたのは2005年で、2012年に改訂した。私は元の本に記述されているテクニックの多くを今でも活用しているが、その一部を更新し、一部のテクニックを削除し、まったく新しいテクニック、章、例を追加した。この本を更新することに複雑な思いがあったことは最初に認めておく。私がよく受ける質問のひとつは次のようなものだ。「これらの取引戦略があなたにとってうまくいっているのなら、いったいなぜそれを共有したいのか? そしてみんながその戦略を使い始めると、効果がなくなるのではないかと心配しないのか?」これは公平な質問である。

『トレードを極める』を書いたことで犠牲になったもののひとつが「3時52分トレード」で、これは長い間私のお気に入りのセットアップのひとつだった。この本を読み、そのトレードを始める人が増えるにつれ、その効果は次第にうすれていった。主に問題だったのは、そのトレードが特定の時間帯に出来高の少ないところを狙うセットアップだったことから、有効性を低下させるにはそれほど多くの追加的な出来高は必要なかったのである。私はこのトレードを捨て、マーケットが発する各種指標*12に今まで以上に基づいた「終日トレード」に置き換えなければならなかった。しかし、この章を本に残した理由は誰がトレードの反対側にいるのかを明確に説明してくれるからだ。これを理解すれば、他の市場でも引けにかけて同じような状況を見つけることができるだろう。その他のセットアップには影響はなかった。これは、私が取引している市場の流動性が極めて高いことと関係している。ヘッジファンドは規模が大きすぎるため、こうしたセットアップを日中ベースで行うことはできないし、市場を動かしてヘッジファンドが行っていることを相殺できるほどたくさんの個人トレーダーもいない。加えて、長年トレーダーと仕事をしてきてわかったのは、たとえ勝てるセットアップをトレーダーに教えたとしても、そのセットアップを始めて7回目くらいになると、トレーダーは自分の性格に合うようにパラメーターをいじり始めるのだ。2回連続で負けた場合は特にそうだ(よし、もう同じことが起きないように調整するぞ!)。結果として、私のセットアップ条件が発動するたびに大量のボタンが押されるわけではないのである。

「なぜ共有したいのか」という点についてはまったく確信がもてない。書くことは好きだが、本にまとめるのは大変なことで、多くの時間、集中力、責任感*13が必要だ。私もいつか本を書きたいと言う人にたくさん出会うが、ほとんどの人がまだ書きはじめていない。外部の力を借りたとしても膨大な時間を費やすことになるからだ。興味を持つ複数の分野で本を出版している他の作家と話すうちに、私はある傾向を発見した。自分自身の手で本を書く唯一の条件*14は、自分の体から本を押し出そうとする強迫観念にとりつかれている場合だけである。理由はなんであれ、私は最初に『トレードを極める』を頭から取り出さなければならなかったし、6年後に第2版として改訂作業に取りかからねばならないと気づいたとき、そして第3版のときも、同じ感覚がわきあがってきた。頭の中に情報の泡ができ、それを外に出すことで頭が整理され、前に進むことができるのだ。短期的にみればそれは実用的だ。こうしておけば、「お気に入りのセットアップは?」と聞かれたときに、この本を渡せばいいだけなので時間の節約になるからだ。

もっと長い目で見れば、私が望むよりもずっと早く(そういえば、私が10代だったのはそんなに昔のことではないような気がする)、私はいずれ死ぬと完全に理解している。これは、私が次の冒険へと旅立った後も、私の一部が生き続ける方法なのかもしれない。私は曾祖父のことを何も知らない。もしかしたら、これはひ孫が私のことを少しでも知るための方法なのかもしれない。もし彼らがトレードをすることになったら、私の本で十分な情報を共有することで、彼らが学習曲線を大幅に短縮できることを願っている。トレードは苦い教訓を引き起こす。私のひ孫がこの本を読んで、成功するトレーダーへの道筋を(悔しさのあまりパソコンに向かって叫ぶようなことは最小限に抑えながら)少しでもつかむことができれば、私がやろうとしたことは達成されたことになる。

この本を読んで、資料や私の得た教訓から本当に何かを得てくれた人たちに感謝する。トレーダーズエキスポやその他のイベントで、この本を読んだ多くの人々に会い、サインをしたり、話を聞いたりした。この本は、トレードの聖杯*15や一生機械的にトレードできるようなシンプルなシステムを探している人向けの本ではない。この本は、自分のトレーディングスキルや個性をマーケットに対して試す道を歩む人たちのものなのだ。それは日々のプロセスであり、同じ日が2度とないことがトレードを生業とすることの面白さなのだ。最後に、この作品を読み、学び、批評してくれる人がいることに感謝し、光栄に思っている。それは真に名誉なことなのだ。

トレーディングと人生は密接に絡み合っている。自分自身をよく理解すればするほど、自分の性格に最も適した市場、戦略、そして全体的なトレーディングに関する哲学を見つけやすくなる。さあ、はじめよう。

PART 1 トレーダーのための短期集中プログラム*16

市場の仕組みの理解とトレードや投資を成功させるために精神面で準備しておくこと

チーズはいらない、ただ罠から抜け出したいだけなのだ。 スペインのことわざ

しがみつくことで強くなることもある。しかし、ときには手放すことも必要である。 ヘルマン・ヘッセ

1 本当のところ、何がマーケットを動かすのか?

マーケットで損をする人の多くが次の4つのことが原因で損をしているということをご存じか?

個人トレーダーは常に流動的な状態にあり、トレーディングがもたらす最高のものと最悪のものの両方をあわせもつ2つの世界の狭間にいる。個人トレーダーはいとも簡単に効率よくマーケットに出入りできる。これは大規模ファンドにとっては夢のような話である。アップル株を2億株、人目を引くことなく売り切るのがどんな感じか考えたことがあるだろうか。両親に妊娠を隠すのと同じくらい、それは簡単なことではないのだ。マウスをクリックすれば売りさばけるのではない。プロセスを踏まねばならないのだ。他方で、個人トレーダーはアップル株1000株やE-ミニS&P500先物10枚を瞬時に取得・売却することができ、その日の取引にさしたる影響を与えることはない。言い換えれば、小口トレーダーは気づかれることなく動き回れるのだ。これは非常に大きな利点となる。ファンドが手の内を見せずにかなり大きなポジションを売ったり買ったりするには、数日、場合によっては数週間から数カ月もかかる。もし手の内を見せれば、他のファンドがフロントランニング*17(彼らの注文前に注文を出す)を実行し、可能であれば彼らを葬り去るだろう。そうやって他のトレーダーから資金を奪い取ることでマーケットで儲けるのだ。冷酷に聞こえるかもしれないが、その通りなのだ。これは志を同じくする魂が集まって香をたき、人生の意味を祝福するような全人的なものではない。これはトレーディングなのだ。

では、なぜこれほど多くの人がこの職業に魅せられるのか? エキサイティングだからだ。確かに魅力的だ。大金を稼ぐチャンスでもある。しかし一言で言えば、それは自由だからだ。人生のあらゆる場面で私たちは何をすべきか指示される。それを嫌う人もいる。トレーダーには地球上の他の人々が決して達成できない、あるいは真似できないような特定のニッチを切り開く自由がある。大半の大富豪には、特にビジネスを営んでいる場合、自由がない。彼らには義務や要求、毎日解決しなければならない多くの課題*18がある。自由を犠牲にしてまでファーストクラスに乗る価値があるのだろうか? 退職者にはある種の自由があるが、その代償はなにか? 魅力的でエネルギッシュな75歳になるストラテジック・コーチ社のオーナー、ダン・サリヴァンは引退について異なる見方をしている。「引退は死があなたを探しに来るためのGPS信号だ。常に興味を刺激する未来に携わっていることが重要なのだ」と。専業主婦はどうか? それは地球上で最も難しい仕事だ(金持ちと結婚するのと同じように)。

私が見た中で自由度の高い有給の職業は、Uberの運転手やUpworkで独自の看板を掲げる独立契約型の仕事だけだ。とはいえ給料がそれほど高くないので、毎月の固定費を払うためには多くの時間を働かなければならない。トレーディングは正しく行えば、少ない労働時間でかなりの収入を得ることができる。トレーダーには、少なくとも一貫性のある技術を学んだトレーダーには、一般の人々が日常的に直面する煩わしさから解放され、独立した生活を作る機会がある。このような特典は非常に魅力的であり、他の多くの職業では真似できない。

トレードをフルタイムでやるのか、パートタイムでやるのかは人それぞれである。キャリアを変えたいとか、もっと独立したいとか、大企業の事業部門を率いていく責任あるいは個人事業の運営責任から逃れたいとか、専業主婦または主夫になりたいとか。私が出会うトレーダー志願者の多くは、他の分野ですでに成功しており、単に退屈しているだけなのだ。このような人たちを私は「刺激を求める医者」と呼んでいるが、これには高収入の職業に就いている人なら誰でも含まれる。彼らは収入と名声が好きなのだが、今陥っているバブルが気に入らないのだ。また、金融市場で火傷を負い、経済的な未来をコントロールすることに興味を持った人もいる。また、小さな資本を集めトレーダーになるという夢を追い求めて挑戦したいと考えてる人も多い。ヘンリーのような男たちが、「トレードを発見したときの興奮」から 「うわあ、あのオプションが無価値のまま満期をむかえるとは信じられない」という痛みを伴うサイクルを経ていくのを、私は自分のオフィスで直接見ている。しかし、数年間浮き沈みを繰り返し、リズムをつかんだ後、ヘンリーが一貫したトレーダーとしての役割を果たすようになっていくのを見るのは楽しいことだ。それは地球上で一番難しい簡単なことなのだ。

これはかなり豊かな生活を送る可能性を提供してくれる「仕事」である。もちろんロックスターになることを除けば、他のどんな職業よりも面白くて楽しい。しかし、U2とステージで共演することが少し手の届かないことのように思えるなら、トレードはもう一つのよい選択肢になる。

信頼できるインターネット環境さえあればどこからでもできる。つまりこの改訂版を書いている2018年ではほとんどどこからでもトレードが可能なのだ。私は飛行機の中でも取引をしたことがある。さらに、専業トレーダーには多くの特典がある。自分の能力レベルまでならいざしらず、その能力を超えたポジションにまで昇進してしまったシステムの中で奮闘する躁鬱病の上司が、無意味で、いつもころころと変わり、互いに矛盾したいろいろな命令を口にすることなどないのだ。企業で働くことは権力を得るための手段であり、経済的自立よりも重要なことなのだという人もいる。このような無能な上司の下で働けば人生の意味を問いながら会社を襲いたくなる原因にもなる。

さらに、トレードをする際には従業員は必要ないが、たくさんのマーケットでトレードし、たくさんのさまざまな時間枠を監視する場合、従業員を雇うことがある時点から非常に役に立つこともある(私は欧州の時間帯に取引したいが、いつかは寝なければならない。しかし、私の代わりに誰かを雇うことはできる)。企業社会を生き抜いてきた私たちは、大勢の感情に流されない人間集団を管理する必要はもうないが、そこから解放されたことで得られる自由と美しさに匹敵するものをこの地球上でなにも見つけることはできない。つまり会社では「私はあなたを褒めるふりをし、あなたは自分の仕事が好きなふりをする」のだ。しかし、良い知らせがある。トレーディングを手伝ってくれる人を雇えば、その人はたいていその冒険的な仕事にあなたと同じように情熱的で興奮することだろう。

コンピュータの価格下落やデルのような企業のリースプログラムのおかげで、スタートアップにかかる費用は最小限に抑えられる。バスローブを着たままでも、あるいは何も着ていなくてもトレードするには問題ない。なによりトレーダーは自分で勤務時間を選べるのだ。私が協力している成功したトレーダーのスケジュールの一例をあげるならば、10月から4月までは活発にトレードして残りの5ヶ月間は休む、マーケット開始から最初の2時間だけトレードしてあとは休む、資金の50%を稼ぐまでトレードしあとは休む、などだ。数え上げればきりがない。ところで、トレーディングによくある間違った考えのひとつに、「さらに儲けるには、もっとトレードしなければならない」という考えがある。これほど真実から遠い考えはない。より賢く、できるだけ少ない頻度で取引することがトレードを生業とする隠れた秘訣の一つである。すべての動きを捉える必要はない。じっくり考え、よくねったトレードを週に2回行うだけでやっていけるのだとトレーダー諸氏が発見したとき、私は彼らが真の自由を手に入れたことを知り、うれしくなる。

トレーディングには多くの魅力があるのだから、何万人もの人がこの魅力的な職業に挑戦するのも不思議ではない。トレーディングはまさにアメリカンドリームの象徴であり、世界中のトレーダーが挑戦しているのだ。2005年にこの本が発売されて以来、私はアメリカ国内はもとより、中国、台湾、インド、スウェーデン、オーストラリア、イギリス、フランス、シンガポール、アルゼンチンなど、多くの国のトレーダーと話す機会を得てきた。要するに、トレーダーが他のトレーダーと話すときは、政治的、哲学的な違いを脇に置いておくということだ。世界中のトレーダーは、頭を使ってカネを生み出し、そのカネが生み出す利益、つまり自由を手に入れるという、ひとつの考えでつながっているのだ。それは美しいことである。私はトレーダーと、彼らがもつ特有のクレイジーさが大好きだ。

「クレイジー」と言っても冗談で言っているのではない。スイスのサンクトガレン大学がトレーダーとサイコパスを比較する研究を発表した。この研究はドイツの高度なセキュリティーを備えた病院に入院している24人の精神病質患者と27人の 「正常な」人々からなる対照群を比較した実際にある研究結果をレビューしたものである。面白いことに、この「正常な」人々の対照群はトレーダーであることがわかった。株式トレーダー、為替トレーダー、コモディティトレーダー、デリバティブトレーダーらが警備の厳重な有刺鉄線に囲まれた精神病質患者と比較された。結局、トレーダーからなるグループの成績は精神病質患者の成績よりも悪かった。この研究では、トレーダーの思考パターンを論理的に考えていくと「甚大な破壊を好み」、「近所で最も美しい車を所有することだけを目的として、近所の高級車をバットで壊す」という結論に至ることが示された。

言い換えれば、トレーダーは常に自分が正しくありたいという欲求とたたかわねばならず、自分の世界観の正しさを証明しなければならないが、お金を一貫して生み出すことにはなんの助けにもならないのだ。サイコパスの教科書的定義を調べてみると、以下に挙げるようないくつかの情報が明らかになる。反社会的行動、判断力のなさ、経験から学ばないこと、他人と同じように自分を見ることができないこと、不可解な衝動性である。まるでこれはマーケットと苦闘するも、なぜ苦闘しているのかその理由がわからない典型的トレーダーのことを記述しているようだ。

つまり、トレーダーを惹きつけるのは自由(と興奮)なのだ。そして、その自由が多くのトレーダーを破滅に追いやるのだ。自由があまりにも多いと残酷な代償が伴うのだ。簡単に言えば、マーケットはトレーダーを守ってはくれない。ファンドマネージャー(の大部分)とはちがって、個人のトレーダーを監督するものはなく、どのようにでも自由に行動できる。そして、多くのトレーダーにとってこれが意味することは、マウスクリックひとつで災難から逃れる生活を送っているということなのだ。市場はトレーダーをなだめ、励まし、さらには悪習を強化する。損切りを取り消した後に、価格が利益目標に達したことがあるだろう。そう、マーケットは少なくともたまにはそんなことをしても構わないと教えてくれるのだ。それが999回連続することもありうる。しかし、逆に一度だけの失敗で、それまでの取引で得た利益が帳消しになり、口座全体が吹き飛んでしまう可能性もあるということだ。それは急落時に金を買い、損切りを外して、1オンス80ドル下落した日だ。「うわー、そこまで下がるとは信じられない」と思うことだろう。

その通りだ。暴走する貨物列車のように迫ってくるものをみていないからこそ私たちは破滅するのだ。高値や安値を追いかける、口座の資金量に見合わない大きな取引をする、損失限度をしっかり把握しないなど、昔からよくある悪い習慣によって、多くの人が常にお金を稼ぐことができないように動き成長するマーケットというものが生み出されるのだ。サイコパスの「経験から学ばない」という特徴を思い出してみよ。それはなぜか。なぜトレーダーは自己を破滅させるのが得意なのか。損することを考えてトレードに参加するものはだれ一人としていないのにもかかわらず。一言で言えば、これはトレーダーが世界で最も優れたセールスマンであることに関係がある。内向的であるにも関わらず、それでも彼らはセールスマンなのである。

中古車のセールスマンには強引で不誠実というイメージがあるが、平均的なトレーダーには到底及ばない*19。ひとたびポジションを建てたトレーダーは、そのトレードに関して自分は正しい、あるいは少なくとも「間違ってはいない」という考えを強化するために自分を欺いてまでなんでも信じるようになる。だれでも間違っているのは嫌なものだ。仕事で間違いを犯した人がそれを他人のせいにするのはよくあることだ。「あのバカな配達員のせいだ。あいつらが台無しにしたんだ」と彼は言う。トレーディングでは自分を責めるしかない。そして、人間というのは自分が実際に間違っているかもしれないということを受け入れるのがとても難しいものなのだ。「森の真ん中で夫が一人で考えを述べたとしても、それでも間違っているのか」というジョークがあるが、おそらくそうだろう。

ごく普通のトレーダーは損失に直面するとチャートを見て近くにいる人だれかれかまわず、「あの急な値動きが見えるかい。あれはヘッジファンドがストップをかけているんだよ。ヘッジファンドがストップをかけたら、みててごらん、マーケットはさらに上げるんだ」と得意げな笑みを浮かべながら言うものだ。現実の結果といえば、彼はポジションを手仕舞いすることなく損失が膨らんでいるのだ。また別のごく普通のトレーダーは、利益が出ても利益確定をためらい、飼い猫に向かって「市場は素晴らしい動きを見せているわ。CNBCではいいニュースがたくさん流れている。きっともっと上がっていくはずよ」と言っている。現実の結果は、彼女はトレードを終わらすことなく損失を抱えることになっているのだ。トレーダーが犯すこうした間違いは、ほとんどのトレーダーが悩む、よくあるがしかし致命的な苦しみなのだ。マーケットによってトレーダーの反応が敗北するトレーダーの考え方に自然に仕向けられていることを彼らは認識していない。そして、マーケットを動かす重要な要素に気づいていない。その結果、「雀のように食べ、象のように排泄する」トレーダーになってしまう。もちろん、これはどんな口座でも耐えられない状況である。さらに悪いことに、トレーダーが正面から向き合い、「頭を冷やし」、トレーディングが地球上の他の活動とは違うということに気づくまで、この感情的にマーケットの奴隷になっていく悪循環は終わらない。トレーディングは大金を稼ぐことよりも、自分が間違っていることを繰り返し認めること(そしてそれをよしとすること)と大いに関係がある。残念ながら、プロのトレーダーはこのことをよく理解しており、このような状況を利用するために自動売買システム(アルゴ)を構築し、特になぜ負けるのかを理解していないトレーダーを食い物にしているのだ。あるトレーダーの災難は別のトレーダーの糧となるのだから。

以下に示すのはトレーダーが損をしてしまう4つの原因である。

  1. 株取引に魅力を感じる人はサイコパスと同じ特徴を持っている。

  2. 生まれながらにして持っている自由は破壊的である。だから結局、私たちは人生の最初の18年間を費やして、ルールに従い言われたことをする方がよいということを学ぶ。

  3. マーケットは現実としてよくない習慣を助長し強化する。

  4. トレーダーは自分の方が正しいのだという認識を強化するためならどんな機会も利用しようとする。

あなたの取引の反対側には常にだれかがいる。その反対側にいるトレーダーになることからはじめよ。追いかけるトレーダーではなく、他の人が追いかけていることを知っているトレーダーになれ。逆指値注文を取り消すトレーダーではなく、トレーダーが逆指値注文を取り消す傾向があることを知っているトレーダーになれ。自分の口座の資金量に対して大きすぎる取引ではなく、資金量に対してちょうどいい、あるいは少ない取引をするトレーダーになれ。すべての動きにエントリーしようと躍起になるトレーダーではなく、たとえその日にトレードができなくても、自分のトレードプランに合致するセットアップを辛抱強く待つことに満足できるトレーダーになれ。長い目で見れば、大きく行き当たりばったりのトレードをするよりも、小さく一貫性のあるトレードをする方がはるかに多くのお金を稼ぐことができる。今すぐ正しいことをしなければならないトレーダーではなく、時間をかけてお金を稼ぎたいトレーダーになれ。

個人の市場参加者の痛みと苦しみを理解すれば、成功の確率はどう高まるのか?

問題は単純で、2つある。第一に、トレーダーはすべてのトレードがうまくいくわけではないことを確かに知ってはいるが、トレードにエントリーした直後はどのトレードでも、それがうまくいきそうだという明確な感覚を覚える。カナダの心理学者2人が行った研究には、人間行動のこの注目すべき側面が記述されている。競馬場で賭けた直後の方が、賭けをする直前の時よりも、自分の馬が勝つ可能性に自信を持っているのだ。明らかに馬には何の変化もないのだが、賭けた人の頭の中では、賭けて馬券を手にした時点でその馬の勝つ可能性が大幅に高まっているのだ。

*1:訳注 ~ 翻訳で迷った箇所について、原文などを表記しています。

*2:「ヘッドライトに照らされた鹿」 ~ 原文では "deer in the headlights" と表記されている。文字通りには「ヘッドライトに照らされた鹿」を意味します。しかし、これは直訳ではなく、比喩的な表現です。具体的には、突如として照らし出された明るいヘッドライトに驚いた鹿が動きを止めてしまう様子から、予想外の出来事や強いプレッシャーに直面してパニックに陥り、何もできなくなってしまう人を指す表現です。つまり、"deer in the headlights"は、突然のショックや恐怖で一時的に行動不能になる人を指して使われる慣用句となります。

*3:新参者 ~ 原文では“fresh meat”と表記されている。直訳すると「新鮮な肉」、つまり、スーパーマーケットや肉屋で購入できる牛肉、豚肉、鶏肉などの生のままの肉を指す。しかしここでは比喩的に、新しい参入者や新人を指すスラングとして使用されていると判断し、この訳にした。

*4:レミング ~ 古くから「レミングは一定の周期で増殖し、増えすぎると海に向かって大移動を開始し、多数が海に飛び込んで自殺する」と言われてきました。この伝説は、彼らの周期的な大量発生と群れを作っての大移動、そしてその途中で起こる大量死が事実であることから生まれました。しかし、実際に「海に飛び込んで自殺する」行動は科学的に証明されていません。繁殖力が強く、2〜3年周期で数が激増することにより食物が不足し、移動を余儀なくされるというのが実情のようです。

*5:エッジ ~ 投資や金融トレーディングの世界でエッジとは、「他の投資家に対する優位性」や「投資成功のための独自の利点や有利条件」を指します。このエッジは具体的には高度な技術分析能力、優れた情報収集能力、投資先の企業や市場に対する深い知識、変動する市場環境に迅速に対応する能力などが考えられます。またエッジは、投資家が長期的な投資パフォーマンスを向上させるための一貫した戦略や投資手法とも解釈されます。例えば、特定の株価指数や経済指標などを用いたユニークなトレーディング戦略がエッジとなることもあります。これらのエッジを持つことで、プロのトレーダーは市場の変動に迅速に対応し、他の一般的な投資家よりも高い利益を得る可能性を高めることができるのです。

*6:追証 ~ 原著では"Margin calls"と表記されています。マージンコールは、証券会社が投資家に対して、証券取引で必要となる担保(マージン)の追加預け入れを要求することを指します。原則的に、この要求は差入れが不足した時点で行われます。証券取引では、投資家が少ない資金で取引できるレバレッジを活用するためにマージンを使用します。例えば、マージン取引では、投資家は自身の資金の一部だけを預け、残りの資金は証券会社が貸し付けます。この際、借り入れた金額の一部を投資家自身が証券口座に預けることが求められるのがマージンです。しかし、投資が思うように進まず、元々預けていたマージンが不足する場合があります。そのような状況になった場合、証券会社は投資家に対してマージンコールを発行し、担保となる資金の追加を求めます。マージンコールが発生しても追加の資金を預入れすることができなかった場合、証券会社は投資家の預かり資産を売却し、損失を補填することがあります。このような理由から、マージンコールは投資家にとってはリスクの一つとされています。

*7:ストップラン ~ 原著では"stop runs"と表記されています。ストップランは通常金融市場において使われる用語で、特定の価格レベルに集中したストップオーダーが一度に実行され、結果として価格が急速に動く現象を指します。ストップオーダーとは、事前に決められた特定の価格で取引を自動的に実行する指令のことを言います。これは、トレーダーが大きな損失を避けるために使用される一方で、利益を確定するためにも使用されます。たとえばあるトレーダーが「100円で株を購入し、価格が95円まで下がったら自動的に売却する」というストップオーダー(ストップロスオーダー)を設定するかもしれません。この95円という点をストップ価格と呼びます。一方で売却済みの株価が一定価格まで上昇した後、一定の下落幅まで下がったら再度購入するオーダーをストップビューイングオーダーと呼びます。ストップランが発生すると、ストップオーダーによって大量の買い注文や売り注文が一度に発生し、市場の価格が大きく動きます。具体的には、価格が一定の水準に達すると自動的に売買が成立するため、一時的に大量の売買が生じて価格が急激に変動するのです。ストップランは、大きな市場の変動を引き起こす可能性があるため、リスク管理の視点からは注意が必要です。またトレーダー間で一斉に同様のストップオーダーが設定されていた場合、その設定価格を大きく上回る、あるいは下回る価格で取引が成立する可能性もあります。

*8:デイトレード ~ デイトレードは、株式や外国為替市場などの金融市場で行われる取引手法の一つです。デイトレードは、1日の取引日の中で、短期間での売買を行うことを目的としています。デイトレードの目標は、1日の取引日の中で小さな利益を積み重ねることです。デイトレーダーは、市場の短期的な価格変動を利用して、株式や通貨を売買します。デイトレードでは、一般的には数時間から数分の短期のポジションを持ちますが、一日以上のポジションを持つことはありません。デイトレードの成功には、市場の動向を正確に予測する能力や、テクニカル分析やファンダメンタル分析などの分析手法を駆使するスキルが必要です。また、デイトレードは高いリスクを伴うため、十分な知識と経験が必要です。デイトレードは、短期的な利益を追求するため、トレードの頻度が高く、取引の速さや正確さが求められます。また、デイトレードは個人投資家にも利用されることが多いですが、プロのトレーダーも利用しています。デイトレードは、市場の状況や個人のトレードスタイルによって利益やリスクが異なるため、十分な情報収集と慎重な取引計画が重要です。また、デイトレードは時間と精神的なエネルギーを要するため、トレーダーは十分な準備と集中力を持つ必要があります。

*9:スイングトレード ~ スイングトレードは、株式市場や外国為替市場などの金融市場で行われる投資手法の一つです。スイングトレードは、短期的なトレード手法でありながら、デイトレード(日中のトレード)よりも長期的な視点を持ちます。スイングトレードの目的は、価格が一時的に変動する「スイング(揺れ)」を利用して、相場の上昇や下降の波に乗ることです。トレーダーは、価格の変動が一時的なものであると予測し、その変動の範囲内でエントリーポイント(買いや売りのタイミング)を見極めます。スイングトレードでは、長期的なトレンドを追いながら、短期的な変動を利用するため、ポジションを保有する期間は数日から数週間にわたることが一般的です。トレーダーは、相場のトレンドが変わるまでポジションを保有し、利益を確定させることを目指します。スイングトレードの利点は、デイトレードに比べて時間的な制約が少なく、相場のノイズ(一時的な変動)に左右されにくいことです。また、ポジションを保有する期間が比較的長いため、スキャルピング(短期的な小さな利益を積み重ねる手法)よりも手数料やスプレッド(売り買いの差額)の影響を受けにくいという利点もあります。ただし、スイングトレードにはリスクも存在します。相場のトレンドが予測と異なる方向に進んだ場合、損失を被る可能性があります。また、ポジションを保有する期間が長いため、途中で相場の状況が変わるリスクもあります。したがって、スイングトレードを行う際には、リスク管理やテクニカル分析などのスキルが必要です。総合的に見ると、スイングトレードは相場のトレンドを追いながら短期的な変動を利用する手法であり、長期的な投資よりも短期的な利益を狙うトレーダーに適しています。しかし、相場の変動やリスクに対する注意が必要です。

*10:ポジショントレード ~ ポジショントレードとは、投資やトレードの手法の一つであり、比較的長期間にわたってポジション(保有する資産や証券)を保持することを指します。ポジショントレードでは、短期的な値動きや市場のノイズに左右されず、長期的なトレンドや価値の変動を追い求めます。投資家は市場の長期的なトレンドや価値の変動を予測し、そのトレンドに沿って資産や証券を保有します。保有期間は数週間から数か月、場合によっては数年にわたることもあります。この手法では、短期的な値動きや一時的な市場の変動に左右されず、長期的な収益を追求することが目的とされます。ポジショントレードは、デイトレードやスイングトレードとは異なり、より長期的な視点で市場を分析し、トレードを行います。投資家は、基本的なファンダメンタル分析やテクニカル分析を用いて、市場のトレンドや価値の変動を予測し、それに基づいてポジションを取ります。

*11:トレードのセットアップ ~ 原著では"trade setups"と表記されています。ここでは、取引の準備や設定を指す言葉です。具体的には、トレードを行うための条件やパターン、戦略などを指します。取引の準備や設定は、トレーダーが市場で取引する前に行う重要なステップです。トレードセットアップは、市場の動きや価格の変動を分析し、取引の可能性を見極めるために使用されます。トレードセットアップは通常、テクニカル分析やファンダメンタル分析などの手法を使用して特定の条件を見つけることで形成されます。たとえば、特定の価格パターン、移動平均線のクロスオーバー、テクニカルインジケーターのシグナルなどがトレードセットアップの一部となることがあります。トレードセットアップは、トレーダーが取引のエントリーポイント、ストップロスレベル、利益確定などのポイントを決定する際に重要な役割を果たします。トレードセットアップを正確に分析し、適切な取引戦略を立てることで、トレーダーは効果的な取引を行うことができます。ただし、トレードセットアップは常に成功を保証するものではありません。市場の変動や予測不可能な要素により、トレードセットアップが失敗することもあります。したがって、トレーダーはリスク管理を適切に行い、慎重に取引を行う必要があります。

*12:マーケットが発する各種指標 ~ 原著では"market Internals"と表記されています。これはおそらくマーケットに内在するもの、つまりマーケットにおいて刻々と変化する時間、出来高、価格という要素をもとにして、いろいろなテクニカル指標が開発されてきましたが、そのことを指しているものと思われます。適切な日本語訳を思いつくことができなかったので「マーケットが発する各種指標」と訳しましたが、何かよい訳語があればご一報ください。

*13:責任感 ~ 原著では"commitment"と表記されています。この単語は翻訳者泣かせで有名な多義語の一つです。英語で「約束」や「契約」といった意味を含みますが、一般的には、「コミットメント」や「献身」、「専念」と訳され、ある目標や任務に対する強い責任感や本気度を示す言葉として使われます。具体的には、仕事の質を上げるために必要不可欠なスキルや時間を割くこと、あるいは信念や理想化に対する深い契約を果たす事を意味します。コミットメントがあるとは、その人が自らの責任を果たし、約束を守る強い意志を持っていることを示します。また、経済的な観点からは、未来のある時点で特定の行動をとることを自ら約束する概念も含みます。

*14:条件 ~ 原著では"way"にあたる訳語です。"way"という単語は英語で「方法」や「道」を指します。具体的な使用法は文脈によります。「方法」や「手段」を示すときに用いられます。例えば、「これが彼の問題を解決する唯一の方法だ」を英語にすると"This is the only way to solve his problem."となります。「道」や「方向」などの意味でも使われます。また、"way"は比較級を作る際にも使われます。「彼は私よりずっと背が高い」は英語で"He is way taller than me."となります。慣用句である"in a way"(ある意味では)や"by the way"(ところで)、"no way"(絶対に無理)など、日常会話で頻繁に使われるフレーズにも含まれています。"way"はまた「習慣」や「状態」を表す際にも使われます。例えば、「彼の考え方」は英語で「his way of thinking」と表現します。ここではいろいろ考えた結果、「条件」としました。

*15:聖杯 ~ 原著では"Holy Grail"にあたる訳語です。"Holy Grail"は英語で「聖杯」を意味します。これはキリスト教の最後の晩餐においてイエス・キリストが使ったとされる杯(カップ)を指します。中世のヨーロッパでは、多くの騎士が聖杯を探し求める「聖杯探求」の旅に出ました。また、物語や映画、ゲームなどのフィクションでは、最終目標や究極の報酬を象徴するアイテムとして聖杯が描かれることがよくあります。投資本でも常勝する秘密の方法として「聖杯」を比喩的に使う本もありますが、そういった本はたいていの場合期待外れに終わることが多い印象です。"Holy Grail"は一般的には「達成困難だが、得られる価値が非常に高い目標」を比喩的に表現する言葉として使われます。

*16:短期集中プログラム ~ 原著では"BOOT CAMP"と表記されています。ブートキャンプは、元々は軍隊の新兵訓練を指す言葉で、厳しい訓練や短期間で集中的に技術を学ぶプログラム全般を指すようになりました。最近ではさまざまな分野に拡張使用され、ITやプログラミングの分野で使われることも多く、特定のプログラミング言語や技術を短期間で集中的に学ぶ教育プログラムのことを指します。ブートキャンプの主な目的は、参加者が必要なスキルを短期間で効率的に学び、現場で直ちに使えるようにすることです。

*17:フロントランニング ~ 原著では"front-run"と表記され、動詞として使われています。「フロントラン」または「フロントランニング」とは、証券取引における不正行為の一つで、証券業者がクライアントの取引情報を元に先んじて自己の取引を行う行為を指します。具体的には、業者(ブローカーやディーラーなど)が大きな取引の注文を受けたとき、その取引が市場に及ぼす影響を予測し、その注文を実行する前に自己の利益を得るために基本的には同方向の注文を先に入れる場合があります。このような行為は他の投資家に不利益を与え、市場の公正性を損なうため、多くの国や地域では法律で禁止されています。

*18:毎日解決しなければならない多くの課題 ~ 原著では"multiple fires to put out daily"と表記されています。直訳すれば、「毎日消すべき複数の火事」となりますが、これは実際に火事が毎日発生するわけではなく、比喩的な表現です。このフレーズは、一日の中に多くの問題、課題、緊急の状況が常に発生し、それらに対処しなければならない状況を表しています。特にビジネスや仕事の環境でよく使われます。これらの「火事」は具体的な問題であり、それぞれがすぐに対処しなければならない事態を指すことが多いです。したがって、"multiple fires to put out daily"は、「毎日解決しなければならない多くの問題や課題」を指します。

*19:到底及ばない ~ 原著では "don't hold a candle to" と表記されています。直訳すると「ロウソクを持っていない」となりますが、その語源は中世のヨーロッパに遡ります。職人の見習いがプロの職人の作業を照らすためにロウソクを持っていたことからきています。つまり、 "don't hold a candle to" には「見習いが職人と同じレベルに達することはできない」という意味合いが込められています。日本語訳としては「~にまったく及ばない」、「~と比べると見劣りする」という意味になりましょう。